標準治療
2000年に厚生労働省から、2001年には日本皮膚科学会からアトピー性皮膚炎の治療ガイドラインが発表されました。ダブルスタンダードとなっていますが厚生労働省のガイドラインは家庭医などの広範な医療関係者向けに、日本皮膚科学会のガイドラインは皮膚領域のやや専門的な医療関係者向きに…と使い分けしているようです。いずれにしましても治療に関しては標準化が図られ、治療環境は大きく進展しています。
治療に関して協会の立場
治療に関し協会は医療機関ではなく、治療面での指示をする立場にはありません。このことを最初にお断りしておきます。
しかし患者さんから寄せられるお話や医学会などにオブザーバーとして参加させていただき、協会なりの見識は持っておりますので、参考にしてください。
オーソドックスのすすめ
アトピー性皮膚炎の治療に関しまして、近道はありません。慢性疾患ですから長期にわたることが多く、焦らず、諦めず、医師の指示を守って治療を受けてください。
多くの皮膚科の医師は「日本皮膚科学会」の治療ガイドラインに沿った治療を進めております。スキンケアを念入りに指導するとともに、ステロイド外用薬を第一選択薬剤とした薬物治療を行なっております。
アトピー性皮膚炎治療ガイドライン
以下は日本皮膚科学会のガイドラインより引用しました。原本は文章の一節がとても長く、一部文脈により理解しやすいように書き換えました。
なお一部治療に類する記述は医師の職能範囲ですので掲載を差し控えました。
病態
表皮のなかでも「角質の異常に起因する皮膚の乾燥」と「バリアー機能異常という皮膚の生理学的異常」を伴い、「多彩な非特異的刺激反応」および「特異的アレルギー反応」が関与して生じる、「掻痒を伴う皮膚における慢性に経過する炎症」をその病態とする「湿疹・皮膚炎症群の一疾患」である。
また、一般に慢性に経過するも「適切な治療により症状がコントロールされた状態」に維持されると、自然寛解も期待される疾患である。
診断
アトピー性皮膚炎の診断は、「乾燥し鳥肌様のいわゆるアトピー皮膚の存在」と「特徴的な湿疹病変」から皮膚科医にとっては容易であるが、日本皮膚科学会の診断基準を参考にされて問題はない。
ただし、豊富な皮膚科的知識と診断能力をもって、「除外すべき診断としてあげられた疾患」を充分に鑑別でき、「重要な合併症としてあげられた疾患」について熟知していることが必要である。
重症度
治療の主体である外用薬療法の選択は『個々の皮疹の重症度』によりなされるものであり、皮疹の重症度と皮疹の広がりから評価される『疾患としての重症度』より決定されるものではない。
すなわち、範囲は狭くても高度な皮疹には充分に強力な外用療法がされるが、範囲は広くても軽度の皮疹には強力な外用療法は必要としない。
よって、外用療法の選択の見地から言えば、以下の皮疹の性状の項目から総合的に判断される『個々の皮疹の重症度』が最も重要であり、「その判断を下せ」さらには「治療効果を予測しうるだけの皮膚科診療技能を有する医師」によって重症度判定はなされなければならない。
厚生科学研究班のガイドラインと本ガイドラインの相違は、この重症度判定方法であり、前者は『疾患としての重症度』により治療法を選択するのに比し、本ガイドラインでは『個々の皮疹の重症度』の判定が外用療法の選択の基準となっており、その相違の生じる理由は『個々の皮疹の重症度』の判定には高い専門性が要求されるからである。
皮疹の性状とは
乾燥・紅斑(腫脹/浮腫/浸潤の度合・苔癬化の度合)・ 丘疹(充実性、漿液性)・痒疹結節・鱗屑(粃糠状、葉状、膜様など)・痂皮(血痂)・水疱・びらん・潰瘍・掻破痕、色素沈着、色素脱失など
皮疹の重症度とは
重 症:
高度の腫脹/浮腫/浸潤ないし苔癬化を伴う紅斑・丘疹の多発・高度の鱗屑・痂皮の付着・小水疱、びらん・多数の掻破痕・痒疹結節などを主体とする
中等症:
中等度までの紅斑・鱗屑・少数の丘疹、掻破痕などを主体とする
軽 症:
乾燥および軽度の紅斑・鱗屑などを主体とする
軽 微:
炎症症状に乏しく乾燥症状主体
治療の目標
治療の目標は患者を次のような状態にもっていくことにある。
- 症状はない、あるいはあっても軽微であり、日常生活に支障がなく、薬物療法もあまり必要としない。
- 軽微ないし軽度の症状は持続するも、急性に悪化することはまれで、悪化しても遷延することはない。
悪化因子の検索
患者と医師の間での信頼関係が構築され、薬物療法が充分に行えれば、ほとんどの例では治療の目的を達成しうる。達成できない例では、悪化因子の検索が必要となるが、年齢層により関与が疑われる因子に若干の違いがある。
乳幼児では、食事アレルゲンの関与がある程度みられる。?
それ以降では環境アレルゲン(ダニ、ハウスダストなど)の関与が疑われ、その他、すべての年齢層で外用剤を含めた接触因子、ストレスなどが悪化因子となりうるとされている。
アレルゲンの関連性については、病歴、血液検査、皮膚テストなどを参考に、可能なものであれば除去ないし負荷試験を行ってから判断すべきであり、例えば臨床症状のみ、あるいは血液検査のみで判断されてはならない。
またアレルゲンを明らかにし得た場合でも、本疾患は多因子性であり、アレルゲン除去は薬物療法の補助療法であり、これのみで完治が期待されるものではない。
心身医学的側面
アトピー性皮膚炎の特に成人の重症例においては、人間関係、多忙、進路葛藤、自立不安などのアトピー性皮膚炎以外の心理社会的ストレスが関与し、嗜癖的あるいは依存症と呼ぶべき掻破行動が生じ、自ら皮疹の悪化をもたらしている例もまれではない。
また小児例においても、愛情の欲求が満たされない不満から同様の掻破行動がみられることがある。
このような場合には、心身両面からの治療が必要であり、精神科医を含めたチーム医療が必要となることもある。
生活指導
- 入浴、シャワーにより皮膚を清潔に保つ
- 室内を清潔に保ち、適温、適湿の環境を作る
- 規則正しい生活を送り、暴飲暴食は避ける
- 刺激の少ない衣服を着用する?
- 爪は短く切り、掻破による皮膚障害を避ける
- ステロイド外用剤の使用によるためでなく、眼囲の皮疹を掻破、叩打により眼病変(白内障、網膜裂孔、網膜剥離)を生じうることに留意し、顔面の状態が高度な例では眼科医の診察を定期的に受ける
- 細菌、真菌、ウイルス性皮膚感染症を生じやすいので、皮膚をよい状態に保つよう留意する
その他の治療法
その他の特殊な治療法については、一部の施設でその有効性が強調されているのみであり、科学的に有効性が証明されていないものが多く、基本的治療法を示す本ガイドラインには取り上げない。
特殊療法のなかでは、PUVA療法が一定の評価を受けているが、一般的に行われるには別にガイドラインを設定する必要がある。